マイクロフォン増幅器と制限増幅器(Limiter Amp with Pre Amp)
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マイクロフォン増幅器及び制限増幅器について
制限増幅器に必要な性能
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マイクロフォン増幅器及び制限増幅器について
人の発声のダイナミックレンジは大変大きいものです。
人の声のピークレベルの大小は ささやき口調から怒鳴り口調まで、少なく見積もっても25db(電圧比約18倍、電力比300倍)はあります。パイルアップの中でコールするときのレベルはラグチュウ時のレベルより15〜16db(電圧比約6倍、電力比約35倍)は高くなります。またささやき声でも定格最大出力で送信しないと 受信側で信号対雑音比が悪くなって良好に届きませんし、怒鳴り声を定格最大出力を超えて送信ことも出来ません。
送信機は、常に最大定格出力を保つ様に変調入力を自動的にコントロールすることが必要になります。また変調レベルを何処でコントロールしたら良いのか?コントロールのループをどう結ぶのか?も大切な問題です。
うまく設計出来るなら ファイナルの出力レベルを検波してマイクロフォン増幅器の利得制御回路に戻すのが理想的とも考えられます。
私のリグは機能ごとにユニット分けしたので、全段を一つのループにしてAGC動作させるには難しいところがあったり、ファイナル部で負荷のSWRが変化した場合どうなるのかよく判らなかったので、フアイナル部を含めてAGC動作させることは避け、兎に角 変調器がオーバーインプットで歪まない様にすること、そして尖頭出力は一定でも平均変調度は少しでも高くなるようなものにしたい、ファイナル部入力まではどんなに大声を出しても一定尖頭値の出力を保つ様にしようと考えました。
私のSSB変調器は、ダブルバランスIC(LM1496)を使用しています。
この変調器はキャリアーバランスが安定している、変調入力レベル キャリアー入力レベルが小さくて済むなど、製作が容易になりますが、ダイナミックレンジが大きくないので、変調入力をシビア−に管理する必要があります。
そのためにはマイクロフォン増幅器の出力が一定になる制限増幅器は不可欠でした。
アマチュア的に見て結構難しく製作し甲斐のあるものなので、頑張って高性能のものを製作しました。
制限増幅器に必要な性能
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制限増幅器に必要な性能
- ゲインリダクションの可能最大値
- ハム用としては20db以上が理想。本機では18db(理想値にやや届きませんがが良い方です)
- 私 変調レベルは、通常のQSOではGR計(ゲインリダクションメーター)を監視しながら ゲインリダクションが10db程度になるようにマイクゲインを調整しています。これはマイクゲインを電圧レベルで3倍ぐらい高めにしていることになります。
- 制限増幅器の出力をモニターしたときの聴感では4dbから6db(電力比で2.5倍から4倍)の音量増加が得られます。
- これ以上は入力を増してもバックノイズが大きくなって騒がしくなるだけで効果は上がりません。
- アタックタイム
- 入力レベルが制限開始点を超えた時、所定の出力レベルに下がる迄の時間。短いほど高性能とされる。長いとスプラッタとして感じられ る。0.5ミリ秒程度なら判らない。 本機では33マイクロ秒(推定値です)
- リカバリータイム
- 超過した入力レベルが正常になったとき、ゲインリダクションが元に戻るまでの時間。ハム用としては短い方が聴感レベルが上がる。 本機では0.5秒程度
- サンプ
- 過大入力があって、制限動作をしたときに、回路の過渡応答特性が悪いと発生するノイズ。数値的には−35db程度に抑えたいところ。 判らなければ可。
- 圧縮比
- 制限開始点から、更に入力レベルを増加させたとき、増加した入力レベルと、増加した出力レベルとの比で表す。通常20db(10倍)入力増加させ、増加した出力(db)との比で表す。本機では20対1(かなり優秀です)。
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回路動作の説明
- PRE AMP
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IC−1の二つの増幅器はマイクロフォンレベルをIC−2の実用レベルまで増幅する直線増幅器です。
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マイクゲインを上げてゲインリダクションを-20db以上にしても歪まないようにする必要があります。
本機では-26db程度です。
- MULTIPLIER
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IC-2 MC-1495Lは四象限アナログ乗算器です。いささか旧型ですがアマチュアにとっては今でも入手し易いICです。ICの基本回路はダブルバランス構成になっていて安定に動作します。
- 制限増幅器の最重要ポイントはこの乗算器です。
+X入力部に非制御の音声信号を入れます。
+Y -Y入力部には制限入力を超えた場合ゲインリダクションをさせる制御信号を入れます。
非制限時+Yには+1V -Yには-1Vが入力されていますが、制限入力を超えた場合0V方向へ下がる様に動作します。
Vo={(+Y)-(-Y)}xXxKとなります。Kはピン5-6 10-11間に挿入されている二個のRで ある程度可変できます。私はデーターを持っていないのでカットアンドトライで決めました。
- 乗算器のバランスが少しでも悪くなると、この制御信号がサンプになって出力に現われひどく聴感を妨げます。
どんな現象かと申しますと 制限動作がある度にブツンとか、バリッとか、の雑音が発生する、またしゃっくりするような音になるとか、音がピリつくとか 激しいことになります。
私が初代機をディスクリートのトランジスタで差動回路で作ったときバランスをとり終るまで、先述のような現象が発生しました、アタックタイムを短くすると物凄いことになります。苦労した末 時々かるくパクンといった感じのノイズが出る程度に収まりました。調整終了後はずっと無調整で長期間の使用に耐えてくれました。
- 今回MC-1495Lを使って製作した本機をざっと粗調整し、初めて音を聞いた時、あまりにも澄んだ綺麗な音がするので ほんとに制限動作をしているのだろうか と思わず疑ってしまいました。
いろいろテスト音声を入れて 気をつけて聞いているうちに 立ちあがりの鋭いピークがくるとわずかですがビッといった感じになることに気付き あれこれ対策を試みましたが決定的な解決には至りませんでした。
考えあぐねてプロの機械はどうだろうかと思いつき NHK京都FMのローカルニュースを聞いてみましたら同じ様にビビリ音を放送していました。
随分の注意を払わないと気が付かない現象ですが、これはやはりサンプだと思います。
- ICのバランスが良く、サンプの発生が小さいので、アタックタイムを短くできたことが、良い性能に仕上がった理由でしょう。
- DIFFERENTIAL AMP
- 乗算器の出力はトランジスタのコレクターになっていて直流電圧が重畳しています、IC-3 IC-4からなる回路でこれを受けて音声信号だけを取り出します。OP AMPの使用法ではごく標準的なものです。
- DC Reject ADJでIC-4出力の無信号時のDC分を完全に0にします。
- DC CLAMP(IC-5)
- ここは本来、出力を外部に供給するためには、低周波トランスを使うべきところです。
トランス結合ではない音声増幅器の出力を、カップリングコンデンサーを挿入し直流分を阻止しておいて、DCテスターで計測するとわかることですが、音声信号の上下非対称のせいでしょうか、テスターの針が動きます。
制限増幅器のフイ−ドバック回路に直流分が重畳するのは気分的に許せません。
トランスを入れたいのですが、良いトランスは高価で入手し難いし、安物を使ってパワートランスから誘導ハムが混入するのも始末が悪いので、OP AMPで積分回路を応用したDCには全くゲインを持たないFC:10Hzのハイパスフイルターを作って入れました。
- IC-5の出力にDC成分が全く出ないようにDC SETします。
- RECT DRIVE(IC-7)
- 非反転増幅器と反転増幅器を並べてプッシュプル接続とし、後ろのシリコンダイオード(1S1585)で両波整流して、その後ろにあるツェナーダイオード(RD-6)の値を超えた入力レベルになったときから制御電圧が発生し 制限動作が始まります。
- LEVEL BALで二つの増幅器の出力レベルを合わせます。
- 制限増幅器の出力レベル変動はツエナーダイオードの温度特性に大きく影響を受けるはずですが、ヘアードライヤーで全体を暖めて見た結果、心配したレベル変動はありませんでした。
- IC-8と時定数回路
- 発生した制御電圧を増幅し、ショットキーダイオード(1SS43)を通して時定数回路を充電し、Rを通して放電します。
ショットキーダイオードを二つ並列にしていますが、これは私の考え過ぎでシリコンダイオード1S1585一本で充分でしょう。
- 制限増幅器を製作するとき、アタックタイム(充電時間)と、リカバリータイム(放電時間)の目標値を設定しておきます。
アタックタイムは50マイクロ秒以下にしたい、ショットキーダイオードを含めた制御電源側の内部抵抗を100オームと仮定して、手元にあった0.33マイクロフアラドのコンデンサーを使用すればアタックタイムは33マイクロ秒、放電抵抗を1メグオームとすればリカバリータイムは0.3秒でちょうど頃合いになると考えて出発しました。
- しつこくテストしているうちに聴感がなにかしっくりしないものを感じる様になったので、デュアルタイムコントロールをテストしてみました、カットアンドトライを繰り返し現在のような定数になりました。フアーストとディレーの二つの時定数の間に数値的なつながりがないと思えるのですが、聴感はごく自然です。
- IC−8 IC−4(後段)
- +Y −Yをドライブする増幅器です。
ゲインリダクションを大きく取れるようにしておきたかったので、ゲイン制御電圧は差動にして乗算器に加えています。
- 中間に入っているダイオードは若し回路が異常な動作をして、逆極性の制御電圧が発生してもここで短絡して抑えようと考えて入れましたが、無用の心配でした。
- Y OFFSETはIC-8の出力を非制限時+1Vに設定します。IC−4出力は−1Vになるはずです。
- IC-8の出力にはGR計(ゲインリダクションメーター)をつなぎます。入力の無い時GR計がフルスケールを指すように直列抵抗を入れます、入力が制限値を超えると指針はマイナスの方向へ振れます、制御電圧は時定数を持たせてありますからこの指針を較正しておくと、何dbオーバーインプットしているか判ります。
- 制限増幅器にGR計は必要不可欠です。容易に動作状態を監視できることが大切です。
私のリグはSメーターをスイッチで切り替えて受信中でも監視できる様にしています。
- と簡単に言ってしまいましたが、実は動作時定数がデュアルタイムになるとファーストタイムで動作するときは制限動作が速くなってメーターの指針がついて行けません。
音声のような変化の激しい信号では正しく指示できず、発振器出力のような持続信号の時しか正確な動作を表示しません。
メーターを監視する時は留意する必要があります。
- EQ&DC CLAMP(IC−6)
- 変調器へ送り出す最終段部です。
- ここでも積分回路を応用して、DCのゲインを0にして、DC電圧を出さない様にしました。Fcは70Hzです。
- 変調レベルは乱暴にも3KオームのVRで直列抵抗を可変にして済ませています。
- 最近メーカー製トランシーバーの音質は変調にもDSPが使われるようになったせいか非常に良くなったと思います。
及ばずながら自分のリグも少しでも変調する音声帯域を広くしたいと考え、この段で低域と高域を持ち上げて見ました。変調を掛け、ミクサーユニットの高周波出力を測定した限りでは、少々の改善がみられます。
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使用した測定器
2トーンゼネレーター 自作(700Hz,2300Hz)
DIRECT DIGITAL SYNTHESIZER 秋月電子キット+自作コントローラー
オーディオアッテネーター 1db,2db,4db,8db,16db 加算式 2式
テスター 1 ソアー社 3120 DIGITAL MULTIMETER
テスター 2 三和電気 C−505 (50Kohm/V)
テープレコーダー AKAI GX−Z5000
モニタースピーカー BOSE AW−1
参考にした文献
トランジスタ技術 SPECIAL
No. 1 特集 個別半導体素子 活用法のすべて
No.15 特集 アナログ回路技術の基礎と応用
No.17 特集 OPアンプによる回路設計入門
No.32 特集 実用電子回路設計マニュアル
No.41 特集 実験で学ぶOPアンプのすべて
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この項終り